クレジットヒストリー物語(3)

取り付け騒ぎ

 いやがおうにも、仕入先の商社が東京から取り付けに訪れてきます。

 日本を代表する東証1部企業の国際商社。

 その商社をわたしに紹介してくれていた、メイン取引先の中堅商社。

 好況の噂を聞きつけ、向こうから営業にやってきて取引を開始していた地元商社。

 幸い、債権者はこのようなしっかりとした商社と、銀行、国民金融公庫のみでしたので、いわゆる街サラ、闇金といった危ない方々の訪問はありませんでした。ただ、今思えば噂が立ってから不渡りを出すまでの間、自宅の近くに商社の担当者のであろう車が停まっていて、常に監視されていたような気がします。私が夜逃げをするとでも思っていたのだと思います。思えば当時、夜逃げをテーマにしたヒット映画が絶賛上映されていました。

商社の本社のある東京

 会社が破綻して、あらたに発覚した事実がありました。

 不渡りを出したと同時に、商社のある担当者が姿を消したのです。

 本社から債権管理部がやってきて、請求書を机の上に叩きつけました。

 解雇したにもかかわらず、無報酬でいいからと残ってくれた事務員さんとその請求書を照合したら、どうやっても3億円ほど数字が合わないのです。

 なんどやっても合わないのです。

 というより3億円も違えば普通わかるでしょう???

 当時、業界全体が不況のあおりを受けて連鎖倒産をしていました。

 聞くところによると、商社マンというのは、自分の担当する会社が3社不渡りを出して回収不能になるとクビになるそうです。連鎖倒産が続くと、よく売る商社マンほどその危険性が高まるのです。そこで、危険を回避するための、膨大な売り上げを誇る営業ならではの手法が明らかにされました。

 私の店は、同業者の中でも高級品しか扱わなかったため、さらにそのために高度な技術が必要だったため、ライバルとして2社ほどあったものの、ほぼ寡占状態の市場でした。

高級花

 ですから、だれも私の会社が倒産するなんて露にも思わなかったのです。

 優秀な商社マンは、取引先の危険性を総合的情報収集でだれよりもいち早く察知します。おそらく銀行なんかよりも半年くらい早くに察知するのです。なぜなら、仕入れ状況と売り上げ状況の両方を第一線で監視しているからです。

 危険を感じると、少しずつ取引量を減らすのです。総取引量が減ると、回収に入ったことを悟られますのでこの場合の減らし方というのは、別の仕入れルートを紹介し仕入先をシフトさせるのです。

 ただ、いきなりシフトすると紹介先にも悟られますので、随分前から紹介しておき、危なくなる直前から取引を開始させるのです。紹介が早いと、その商社も健全経営のうちに審査をしますのでまさか倒産するなんて思いもよらないというカラクリです。

 そのように取引量を減らして、なんとかごまかしの利く量にまでなったら一気に私の店のような、見た目はつぶれるはずもない景気の良い企業に、別の社内的な売り上げを付け替えて支払い未決扱いで宙に浮かせておく。

債権付け替えの仕組み

 総量取引をしているときは、締め日があって支払日があって、手形決済日がありますので、その時間のずれをうまく使って商品を書類上転々とさせるのですが、彼にとって不幸だったのは、よその倒産した会社の債権を私の店に付け替えた直後に、思いもよらず私の会社が不渡りを出してしまったので、察知したときは既に遅し、代わりの付け替え先がなかったためそのまま仕入れた覚えのない3億円もの売り上げが、私の店に計上されていたという結末でした。

 上場企業でさえ売上管理は難しいようです。

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