クレジットヒストリー物語(2)

負債総額

 たった500万円の手形決済当日、当座預金口座内には150万円しかありません。現金が用意できない屈辱感。こうなったらなんでもやります。手形ジャンプのお願いのため、複数の取引先に泣きつきにいきました。

 このまま不渡りを出されるのがいいのか、ジャンプして待つだけの価値があるのか。取引先は選択を迫られます。

 待って回収できるものであれば待ってくれるでしょう。しかし噂が噂を呼び、すでに信用は0。取引先も、損切の覚悟を決めている・・・。口には出しませんが、言葉の端々に、そんな気持ちが表れてくるのをひしひしと感じます。

 「おれは負けたのか!」

 挫折感と絶望感だけが湧いて出てきます。

 なにより噂を聞きつけて、本社から手形相当分の回収を指示された大手商社の営業マンが、朝から事務所に来て張りついています。

 他の仕入れ先の担当者は、原材料を、勝手に乗り付けたトラックに積み始め、商社マンと言い合いをしています。

 「これはみんなのものでしょうが!!!」

 「だれがそんなこと決めたんや!!!」

 「みんなのものですよ!!!」

 「あほか、おまえは!!!どこに名前書いとるんじゃ!!!」

 売掛金相当額をトラックに積み込むと、満足した顔をして「うちはもう来ないから安心しな!!」と言い残して立ち去ります。

 社員10人ばかりの小さな会社ですから不渡りを1回でも出したらもはやおしまいです。
 半月後には2回目の手形決済日が来ますがもはやなす術もなく、ただ時間だけが過ぎ去っていきます。
 店の所有不動産はあったものの、田舎のことですから用のない人には二束三文。

 

田舎の土地は二束三文

 これといった大きな財産もなく店にあった商品も、1回目の手形決済日に商社がトラックで乗り付け、根こそぎ持って帰ってしまったため、売り掛け債権だけが残るのみでした。

倉庫内の在庫を根こそぎ持っていかれる

倉庫がからっぽに・・・。

 社員の給料には「先取特権」があるので本来は何もしなくても大丈夫なのですが、従業員たちが百戦錬磨の債権者に対抗するような器用さがあるわけでもなく、安全に安全を重ねて社員組合を発足させ、売掛債権をすべてその社員組合に債権譲渡し、速やかに売掛債務者に内容証明郵便で通知することで、最後の財産を差し押さえできないようにしました。
 これまで10年弱あまり、自分を信じてついてきてくれた社員さんにも大きな不義理をしましたが、銀行は回収のプロですので、かつて藁をもすがる思いで申込書にサインをした国民金融公庫からのお金を、そっくり持っていかれた裏技に危険を感じ、最後の給料だけは誰にも邪魔されずに支払えるように、これは、経営者としての最後の意地だったのです。

 負債総額1憶2000万円。同じころ、メガバンクが巨大損失を出したとニュースになっていましたが、その額1500億円。それでも1年で償却できるといううらやましい限りの記事でしたが、一個人が返済するとなると40年分の負債です。自分の無力さを感じざるを得ません。

 それより、気がかりなのが、国民金融公庫の融資。

 融資を受けて一回だけ返済して翌月には倒産です。

 しかもその融資金は運転資金になったのではなく、取次した銀行が勝手に自らの銀行へ相殺して取り上げてしまっているのです。勘のいい人はお判りだと思いますが、公庫からの目線だと計画倒産詐欺と疑われてもおかしくない状況になっているのです。刑事にひっかかると健全な再建はもう不可能です。

 これからのことが走馬灯のように頭の中を駆け巡るのでした。

=一口メモ=債権譲渡制度
 所有権や抵当権のように登記をすることのできる「物権」の場合は、第三者に権利の変更を知らせることができます。
 しかし、当事者の約束のみで成り立っている別名「契約」とも言われる「債権」の場合(物権の設定契約は別ですが)、差押債権者が「譲渡の事実を知らなかった」ということも考えられトラブルの元です。
 そこで一定の条件を備えた債権の譲渡には拘束力を持たせることができるよう民法で規定されています。
 その方法が、債権を譲渡した人が、その譲渡された債務者に「確定日付ある通知」を行うことです。(債務者のほうが確定日付ある「承諾の通知をする」でもいいのです。)
 「確定日付」とは、公の証明になる日付の事を指しますので、一般的には「内容証明郵便」を使った通知が手軽に利用できます。

一口メモ解説者 天堂教授
天堂教授

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